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こんにちは!ジョーです!! 航空学生時代の思い出第10弾!
気が付けばもうこのシリーズは10回目になるんですね・・・いつも応援いただいている皆さん、読んでいただきありがとうございます!
前回に引き続き第202教育航空隊でのお話となります!今回は民間機などと同じようにIFR(計器飛行方式)での出発と進入の訓練に関するお話です!
フライトシミュレーターをされる方やエアバンドで管制官の通信を聞く方にはなじみがある方もいるかと思いますが実際にやってみると非常に大変です!汗
今回はこれらの訓練の時の裏側についてお話します。
計器出発・計器進入とは?
皆さんが見かける航空会社の飛行機は基本的にIFR(計器飛行方式)で運航されております。なぜなら、運航に関して管制官の指示に従いながら飛行することで適切な安全間隔を保ったり少々天気が悪くても安全に運航することができるからです。
自衛隊の航空機も当然IFRで運航することは多いのですが、任務の際は離陸から着陸までの間ずっとIFRで運航するのではなく、任務を行う空域に入るまでIFR、任務空域ではVFRと状況によって使い分けます。
計器出発について
計器出発という用語は一般的にないのですが、「標準計器出発方式(SID)」による出発と認識していただければと思います。
IFRで出発する際、目的地までの「ルート」と「巡航高度」を決めて「飛行計画書(フライトプラン)」を航空事務所等へ提出しなければいけません。ちなみにフライトプランの作成は大手航空会社などでは運航管理者(ディスパッチャー)が作成しますが、自衛隊にはディスパッチャーはいないのでパイロットが自ら作成します。
この飛行計画書をネットワーク上に登録し承認を取ると航空管制の世界ではいよいよ出発準備が完了となります。訓練を行う我々は管制承認を取るまでの間に飛行機に乗り込みエンジンを始動します。
ここからがタイトルの「しゃべり」の部分、最初にしていきなり真骨頂です!
訓練している徳島基地では「徳島グランド」へ管制承認を受け取ります。※羽田などでは「デリバリー」という管制卓があるのでそこへ交信します。※202教育航空隊のコールサインは「KING(キング)」と言います。
Tokushima Ground King〇〇 IFR to Atsugi FL170.
King〇〇 Clearance ready to copy?
Go Ahead.
King〇〇 Cleared to Atsugi air port via misaki one departure ,Kushimoto transition , then Flight plan route,climb and maintain FL150 expect FL170 squawk1234,readback.
King〇〇 Cleared to Atsugi air port via misaki one departure ,Kushimoto transition , then Flight plan route,climb and maintain FL150 expect FL170 squawk1234
King 〇〇 readback is correct
当然、事前に勉強してから訓練へ向かうのですが、初めて聞いたときは全然聞き取れず何度も聞き直すなど苦戦していたのはいい思い出です。ちなみに、これを「クリアランス」と呼んでいるのですがこれは「リードバック」といい管制官から言われた内容を全て間違えずに繰り返し返答することが必須となります。
先ほどの例文を分解すると次のようになります。
- Cleared to Atsugi air port→目的地(厚木基地)までの出発を承認
- via misaki one departure→出発方法は「misaki one departure」
- Kushimoto transition →その後転移経路の「Kushimoto transition」で飛行
- climb and maintain FL150→飛行高度はフライトレベル150(15,000フィート)まで上昇を許可
- squawk1234→スクォーク(レーダー識別コード)1234
これは、目的地までの運航の承認と出発するルート、巡航高度についての指示を出しています。進入方式については目的地へ近づいてから別途指示が入ります。
標準計器出発方式
前項の例文で「misaki one departure」という出発方法について触れましたが、これは各飛行場で定められているSID(Standard Instrument Departure: 標準計器出発方式)の名称となります。
SIDを利用し出発するメリットは、悪天候などで飛行中に周辺の障害物視認できない状態でも障害物を避けたり、トラフィックが近づいてきても迅速にレーダー識別ができる状態になるため、トラフィックとの間隔を管制官がとりやすくなるなどのメリットがあります。
しかし、パイロットは事前にSIDについて把握する必要がありますので、事前準備が今まで以上に重要となります。
上図がSIDを示したチャート(地図)になります。出発する滑走路ごとに旋回する方向や高度制限、コース等が細かく規定されており、これを覚えてからフライトに臨まないと実際のコースを逸脱してしまったり、管制官との交信が聞けなくなるなど非常に危険な状態へ陥ってしまいます。
計器進入について
目的地の飛行場が近づくと着陸に向けてレーダー誘導を受けつつ計器進入と言われる着陸までの進入経路の指示が入ります。計器進入には大きく2種類に分かれ、202教育航空隊ではタッチアンドゴーも兼ねて1度の訓練で何度も計器進入を行い訓練します。
非精密進入
非精密進入とは一言で表すと「高度情報を提供しない航法援助無線施設等を利用して行う着陸進入」です。一般的にNDB・VOR・TACAN・RNAVを用いた進入(アプローチ)を指します。どういうことかと言いますと航法援助無線施設とは、その施設に対して自機が2次元的にどこにいるのかを教える施設です。このVORやNDBは施設から方位情報しか提供されないため、DMEと呼ばれる距離を測定する施設と組み合わせて自機位置を把握します。
ただし、RNAVアプローチはGPSから位置情報を取得しウェイポイントと呼ばれる通過点を経由しながら着陸へつなげます。
そのため、後ほど説明する精密進入と比較し気象制限(最低気象条件:最低降下高度と視程距離)が厳しく設定されています。
精密進入
先ほど説明した非精密進入と異なり、進入コースに対し航空機の相対位置を3次元的に示し安全なコースで飛行させることができます。一般的にILSやPARが精密進入にあたります。
上図のように滑走路ないし進入コースに対して自機がどの位置にいるのかを計器で示すことができるため、最低気象条件も比較的厳しめに設定ができます。
ちなみにPAR進入というのはILSを構成する各種施設から発する電波を受信して着陸コースを誘導する役割を、管制官が専用のレーダーを用いてひっきりなしにしゃべりながら適正な着陸コースへ誘導して行う計器進入方式です。
どこでもあるわけではないのですが、自衛隊の飛行場では必ずPARができるように設備を整えていますので、もし管制交話を聞きたい方は自衛隊の基地がある飛行場へ行ってみてください。
それぞれの事前準備について
SIDや計器進入には前項までのようにチャートなどがありますが、操縦しているときにじっと資料を見ながら操縦は危ないので当然行いません。
そのため、操縦しながらでもパッと見て確認ができるよう書き込んだり、蛍光ペンで目立つように線を引いたりと様々です。
上図のVOR RWY29という進入方式ですと、まず飛行場の上空から122度で離れていきその後10NM以内で左旋回しつつ282度の方位で最終進入コースへ乗り、飛行場へ向き進入していきます。
この時、離れていくときは追い風を受けることを考慮しつつ最終進入コースへ入る旋回のバンクコントロールをしつつ指定高度を守るための降下率を維持することが重要になります。
天気が悪いとき、正確にコースを守って進入しなければ滑走路を視認する可能性が低くなるうえに障害物に不用意に近づく可能性があるため、非常に神経質な操縦になりがちです。また、正確な操縦を行いながら滑走路を探すため、できるだけ操縦の負荷を減らすため様々なデータをアプローチチャート内に書き込みながら訓練に備えていました。※実際は上図の倍くらいいろいろ書き込んでました。
そのほかにも今回紹介したSIDやILSなどの精密進入に関しても同様の準備をしながら、イメージトレーニングを重ねて訓練に臨みます。
終わりに
今回は第202教育航空隊で行う代表的な計器飛行方式の訓練について紹介しました。少々業界用語が多くなってしまったかもしれませんが、ステップアップする毎により綿密な準備を行わないと安全運航ができないということが伝わっていただけると幸いです。
また、フライトシミュレーターを日頃楽しんでいる方はより深く楽しんでいただく一助になればと願っております。もしご質問などあれば気軽にお問い合わせくださいね!
さて、次回はとうとう第202教育航空隊編最終章、「国土交通省事業用操縦士」のライセンス取得時のお話となります。今までで最も高い壁であり不合格は即罷免、合格したら卒業という厳しい試験です。
そんな厳しいところを乗り越えた一端が伝わればと思います!
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