前回のお話(航空学生時代の思い出⑩ 事前準備としゃべりが大事!)はこちらから!
初めて読む方はこちらから!
こんにちは!ジョーです!! 航空学生時代の思い出第11弾!
第202教育航空隊編最終回、学生期間を通じて最もハードルの高い「事業用操縦士」の技能証明取得についてお話します。合格したらパイロット、不合格で罷免というかなり厳しい状況での合格のつかみ方とは?!
パイロットのライセンスについて
試験のエピソードをお話する前に、日本で航空機のパイロットになるライセンスについて説明します。日本で定められているパイロットのライセンスには大きく3つの種類があります。
自家用操縦士
国土交通省では「航空機に乗り組んで、報酬を受けないで、無償の運行を行う航空機の操縦を行うこと。」と規定されています。
簡単に例えると皆さんがお持ちの自家用車の免許のようなもので、個人で遊覧飛行を行うなど国内でも個人所有している方がいます。
事業用操縦士
自家用操縦士と違い、いわゆる車の2種免許のようなものとなります。そして下記に規定されているようにできることの幅が少し広がります。
- 自家用操縦士の資格を有する者が行うことができる行為(無償の運航を行う航空機の操縦)
- 報酬を受けて、無償の運航を行う航空機の操縦を行うこと。
- 航空機使用事業の用に供する航空機の操縦を行うこと。
- 機長以外の操縦者として航空運送事業の用に供する航空機の操縦を行うこと。
- 機長として、航空運送事業の用に供する航空機であって、構造上、一人の操縦者で操縦することができるもの(特定の方法又は方式により飛行する場合に限りその操縦のために二人を要する航空機にあっては、当該特定の方法又は方式により飛行する航空機を除く。)の操縦を行うこと。
つまるところ、事業目的で使用する航空機の操縦ができるライセンスとなります。
ここで記載されている「航空機使用事業」というのは代表例ですと測量や写真撮影などとなります。「航空運送事業」というのは皆さんもよく見かけるANA等をはじめとする航空会社のことを指しております。
定期運送用操縦士
日本で定めるパイロットのライセンスで最上級のものとなり、航空会社の定期便の機長になるにはこちらを保有していないといけません。定期運送用操縦士ができることは次の通りです。
- 事業用操縦士の資格を有する者が行うことができる行為。
- 機長として、航空運送事業の用に供する航空機であって、構造上、その操縦のために二人を要するものの操縦を行うこと。
- 機長として、航空運送事業の用に供する航空機であって、特定の方法又は方式により飛行する場合に限りその操縦のために二人を要するもの(当該特定の方法又は方式により飛行する航空機に限る。)の操縦を行うこと。
それぞれのライセンスでは当然難易度が難しくなるとともに、航空身体検査証明の有効期間が異なるなど細かなところで基準が異なります。
試験に備える!
ここからいよいよ本題に入っていきます。事業用操縦士をはじめ航空従事者と言われる方は大きく「学科試験」と「実地試験」の2つの試験に分けて実施しその結果をもってライセンスが付与されます。学科試験を合格した後に実地試験を行いますが、学科試験に合格できないと航空学生罷免も待ち受けているので二重のプレッシャーが待ち受けております。
飛ばないときはひたすら受験勉強!学科試験合格への道
学科試験は毎年年間4回ほど行われており、会場は主に「北海道・宮城・東京・愛知・大阪・宮崎・沖縄」で行われております。徳島基地の最寄りは大阪会場になるため、私が受験したときは同期みんなで大阪まで繰り出し受験しました。
学科試験はマークシート方式で下記5科目の受験が必須、それぞれ100点満点中70点以上で合格となります。
- 航空気象
- 航空工学
- 航空法規等
- 航空通信
- 空中航法
ちなみに過去問題は国土交通省のHPにありますので、興味のある方はご覧ください。https://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr10_000025.html
この5科目全てが合格になると晴れて実技試験へステップアップとなります。ただし、筆記試験に合格できなかったときは訓練のスケジュール上1回だけ2か月後の再試験に行けたのですが、それでも合格できないときは罷免になる可能性があります。
そのため、私が受験したときは201教空を卒業する1ヶ月ほど前から受験対策の座学が始まり、202教空へ異動の後約1ヶ月は受験対策に終始します。受験2週間前くらいになりますとひたすら過去問題を解きまくりつつ教官から改めてその時の試験で改定されるであろうポイントを再確認し試験に備えました。
今考えると予備知識が既にあっても、約2ヶ月で受験するとはとんでもなく短期集中型の受験対策ですよね!
私は何とか全科目一発合格で学科試験を終え、実技訓練へ向け訓練を始めることとなります。
飛ぶだけじゃない!実技訓練対策
実技訓練と聞くとこれを読んでいる皆さんはフライトして、指定された科目などを行いその出来具合をみて合否の判断をするとは思っていませんか?
「半分」正解です!!
フライトも実技に入りますが、そのほかにも「口頭試問」つまり「面接」があります。
その口頭試問の内容は、例えば「航空法第73条の条文を教えてください。」という感じで約1時間ほど筆記試験と同様の5科目について知識の習得度を確認されます。
口頭試問の対策は丸暗記しても実際に答えられない場合があるので飛行訓練の前後のブリーフィングの一環で少しずつ質問を重ねて知識をアウトプットできるよう備えていきます。
また、フライトの実技は計器飛行訓練などとは異なる科目を行うので、計器飛行方式での飛行が一通りできるようになるとライセンス取得に向けた訓練へ移行します。
一世一代の大勝負!実技試験
ここからはいよいよ実技試験のお話に移ります。正直、私はこの時まじめに罷免を覚悟しました。それくらい怖いと言いますか多大なプレッシャーがかかりました。
ガチガチの口頭試問
実技試験は2日にわたり行われます。その1日目は口頭試問と訓練エリアでの科目実施とタッチアンドゴーになります。
まずは口頭試問、202教育航空隊の事務所にはほかの航空隊とは異なり試験の口頭試問のため、専用の面接室が数部屋用意されており、そこで行われます。
ビシッとアイロンをかけた制服に身を包み、企業の採用面接のような緊張感のある面持ちで試験官が待ち受けています。
そこで、法律・気象などなど筆記試験と同様に様々な分野での知識の確認や、ケーススタディ等様々な質問に答えていきます。それに対して淡々と採点されて終わったら「ありがとうございました。次は○○時にブリーフィングルームでフライトの準備をしてください。」と伝えられ、口頭試問の反省をするまもなくフライトの準備へ移ります。
正直、緊張しすぎてどんな質問を受けたとかはっきり覚えていないです(汗)多分、1時間程度のめんせっつなのですが、体感はもっと長い時間だったのかもしれません。
クビを覚悟したハイワーク
口頭試問を終えると、訓練エリアへ向かい急旋回などの基本的な科目から緊急事態の対処等を中心に行うハイワークの実技試験へ進みます。
普段のフライトと同様に気象ブリーフィングなどを試験官に行い、訓練エリアへ進出し安全確保しながらコツコツと科目をこなしていきます。
TC-90は以前にもお話しましたが双発機ということもあり、必ずと言っていいほどエンジン故障を想定し左右どちらかのエンジンを上空でカットします。
私の場合は試験官から急に「そろそろ行くぞ~!!」と淡々と話しとあるスイッチを切りました。
私は「えっ!?」と動揺しながらスイッチが切られるところを見るなり慌てて緊急時の対応をはじめ、大声で「エマージェンシーシャットダウンチェックリスト!!」と叫びながら徳島基地へ機体を向けつつエンジンを安全にシャットダウンして、再始動を行いました。
再始動から基地への帰投までは動揺が隠せませんでしたが何とか帰投し、ハイワーク第2ラウンドタッチアンドゴーへ移行します。
先ほどの同様のせいか緊張が抜けきらず、ゴーアラウンドを何度も繰り返し何とか数回着陸し試験官からの着陸指示が入り試験終了。
あっという間の試験で着陸後昼食へ行くよう指示されました。昼食後デブリーフィングとなるのですが、この時思っていたようにうまくいかず不合格が告げられると悟り罷免を覚悟しました。
ですが、この時のデブリーフィングは細かな指摘はあったものの非常に淡々としており、翌日はナビゲーションの実技試験なので準備するようにだけ言われ、「生き永らえた・・・」とホッとしました。
最終試験 航法・生地飛行
実地試験も2日目、試験官が別の人に変わりブリーフィング開始!実技試験2日目は航法・生地飛行になります。
徳島基地での生地訓練(母基地と異なる飛行場へ行く)は徳島から比較的近隣の「高松・広島・松山」の3空港へ試験前の訓練からよく行っていました。試験の時もランダムでいずれかの空港へ行きタッチアンドゴーを行います。
その時はまっすぐに行くのではなくブリーフィング時に試験官から想定が与えられ、それに応じてコースの設定等フライトプランを作成し改めて報告します。
例えば、「あなたはカメラマンを乗せて指定された場所で撮影させます。そのポイントは倉敷美観地区で、その後広島空港でデータを引き渡し小豆島を撮影した後に徳島飛行場へ帰ってきてください。」といった感じです。
想定を聞いたら制限時間が与えられ、手持ちのチャート(地図)に線を引き、方位・距離を確認してフライトログへ記入、終えると飛行時間や使用する燃料の量など計算し改めてブリーフィング開始!
そこでも改めて口頭試問が少し入りつついざフライトへ向かいます。
ちなみにここでの航法はIFRで飛行するときとは異なり「地文航法」と呼ばれる航法を行います。これは実際に地形を確認しながら位置を把握して行う航法のことを指します。
そのため、位置の把握にVORなどと言った航法援助無線施設も利用しますが、基本的には外の地形を見ながら把握して行きます。また飛行中「A点からB点」、「B点からC点」と飛行する間にストップウォッチで時間を図ったり、コースのズレ具合を確認し上空で風の再計算を行い地上で計画した内容の修正を行います。
そうしながらも計画通りに飛行し帰ってくるのです。その間試験官はほとんどしゃべらないため、緊張した空気がずっと流れながらフライトしていました。
最後のデブリーフィング、合格発表
フライトを終え飛行後の点検を済ませると試験官から「デブリーフィングを行うので、ブリーフィングルームで待っていること」と告げられました。
汗だくの体をふいてブリーフィングルームで待っていると試験官が深刻な表情で来て一言、「今回の試験の合否を伝える・・・今回は非常に大目に見るが合格!とりあえずおめでとう!」その言葉を聞き、全身の力が抜けました!
とはいえ、大目ということもありその後のデブリーフィングは2日分の反省点をまとめながらだったので非常に長かったです・・・。伸びしろは大きいということですね(汗)
そして、お世話になった教官や同期、両親へ合格を伝えてその日はもう何か月分の疲労で倒れるように寝てました!
特別指導期間も辛いのですが、この試験は別の辛さを思い知らされたと思います。ここまで本気で努力できたことは後にも先にも今のところこの時を超えることはありません。
終わりに
今回は航空学生としておそらく最後の大きな壁、ライセンス取得についてお話しました。国土交通省の事業用操縦士をここで取得し名実ともに「パイロット」に慣れた瞬間です!
ちなみに小月基地の2年目で苦楽を共にした海上保安庁の同期とはここでお別れになります。彼らは一足早く全国各地にある海上保安庁の航空基地へ赴任し前線で更なる訓練と任務に励むこととなります。
私たちは卒業後、千葉県にある下総航空基地へ舞台を移します。とうとう実戦部隊で使うP-3Cでの訓練開始です。初めての大型機、そして旧式の飛行機に戸惑いを覚えながらも引き続き粘り強く頑張っていく模様をお伝えします!
それでは次回もお楽しみに!!
コメント